第二章

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 詳しいのは一応神社の娘だから。『邪神の監視人』であっても、古事記くらい読んでるよ。  桃ちゃんは?と聞こうとしたら、なぜか九郎がやめるよう目配せしてきた。  何か事情があるらしい。  よく分かんないけど、部外者が立ち入るべきでない領域なようだと判断し、従った。  比良坂翠生さんがつぶやく。 「やはり……」 「何か分かったのか?」 「言っていいんですか」 「構わん。本人がきちんと知っておいたほうがいい」 「普通は隠しておくものですが、信頼されてるんですね。さすが八岐大蛇の息子の嫁。普通とは違う女性のようだ」  比良坂翠生さんはあたしに向き直った。 「僕は貴女がかつて妖に狙われた理由を探す依頼を受けました。オモヒカネノカミの力ならば分かるかもしれないということで。呪物を引き取りに来た際、一度お見かけしてるんですが、その時は確証がなかったので黙ってました。でも調査の結果、間違いなかったようですね」 「あ、そんなの九郎は頼んでたんですか」 「もったいぶらずに話せ」 「話しますよ。端的に言いますと、貴女はテテュスさんと似てるんです」  あたしは首をかしげた。 「えーと……ギリシャ神話の海の女神。神々の王ゼウスと妻ヘラの最初の子ヘパイストスは、実母ヘラに疎まれ、生まれた直後に下界へ投げ捨てられた。海に落ちた彼をテテュスが拾い、養子にして育てる。ヘパイストスは生まれつき足が悪くて歩けない代わりに手先が器用で、鍛冶の神となるが、その才能に気付いて伸ばしたのも彼女。……テテュスが人間の王と結婚する際、ギリシャ中の神が集まって祝うが、一人だけ、争いの女神エリスだけはハブられた。絶対トラブル起こすからって誰も呼ばなかったんだけど、キレて『一番美しい女神へ』と書いた黄金のリンゴを会場へ投げ込む。たちまい女神たちの争奪戦。これがかの有名な『黄金のリンゴ事件』。……なお、これ解決するために無関係な第三者として貧しい羊飼いパリスが審判として呼ばれるんだけど、最後まで残った女神三人は買収にかかる。パリスは『世界一の美女をくれる』女神を選んだ。これが『パリスの審判』。―――ちなみに三人の女神の名前は、ヘラ、戦いと知恵の女神アテナ、美の女神アフロディテ。パリスが選んだのはアフロディテ。残り二人の提示したご褒美は……」  九郎がストップかけた。 「東子、もういい。ていうか詳しいな」
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