第二章

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「いーわよ。武士に二言はない。自分で言ったことの責任は取るし。あんたがいてくれたほうが、安全なのは確かだもんね」 「東子さん、かっこいい! 男前ですね」 「だろう? こういう強いとこに惹かれたんだ。ところで嬢ちゃんは好みのタイプってあるのか?」 「目ギラつかせた大蛇が舌チロチロしてれば、敵も逃げるだろうよ。ていうか、桃に何聞いてんだ」 「誰かさんのために聞いてやろうと思ったんだが?」  比良坂士朗さんは不愉快そうに顔をしかめた。比良坂翠生さんがフォローに入る。 「はいはい、その話はやめましょう。ところで虫系妖のことですが、各地の神にも聞いてるところです」 「そうか。分かったらすぐ知らせてくれ。シメに行く」  物理的に絞めるのかな。 「あのー……高天原的に、ほんとにこいつでいいんですか」 「何が」 「だってギリシャの神々は、テテュスの夫にどんな神も許さなかったんですよ」 「さっきも言ったように、こいつの境遇には同情論が多い。八岐大蛇の息子だからと敵意持ってる連中も、あんな事情で長年封印された挙句にやっとできた嫁まで取り上げるとは言えないさ。それにこいつは蛇神の性質上、執念深く、気に入ったものは抱え込んで放さない。君を取り上げたら100%暴れ出すぞ。八岐大蛇より強い奴を暴走させるアホがいるか」 「八岐大蛇とは互角だったから、須佐之男命に頼んだんじゃ」 「手段問わず……つまり神や人間食べて力を得てれば圧勝だっただろう。それをしなかっただけでもこいつが悪い奴じゃないってのは明白だ。―――さて、俺たちはそろそろ帰るよ。子供は寝る時間だ、桃」 「士朗お兄ちゃんてば。子供あつかいしないでよ」 「俺にとっては子供だよ。じゃあな、九郎。嫁さんを大事にな」 「……お前もな」  九郎の言葉に比良坂士朗さんは複雑な顔をした。  悲しみでも喜びでもない、よく分からない感情が入り混じったような―――。  ……?
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