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 こつこつと響く足音が自分の足元から聞こえる。  まるで大理石を革靴で歩いているような音なのに、地面は少し水を含んだような土で、それはおかしいだろうと誰に言うでもなく突っ込んだ彼は、もっとおかしなことに気づいた。  自分は確か、図書館で本を読んでいたはずだ、と。  立ち止まって振り返って見た、歩いてきたはずの細い道は、霧に包まれている。進むしかないのかと前を見ても、霧が先を覆い隠している。一歩、足を出したとき、おかしいと思っていた記憶があやふやになり、ただひたすら前を向いて歩き始めた。彼の記憶の整合がなされたことに、彼は気付く様子もなく、その深い森の中を迷うそぶりも見せずに踏みしめた。  幻想的な森だ。全体的にグレー懸かったブルーで、どこまでいってもその世界が広がっている。空は見えぬくらい高い木々が(そび)え、森全体を覆い隠すように霧に包まれている。足音は聞こえるのに、鳥の鳴く声ひとつ聞こえない。風の音や人の声すらも。ただあるのは静謐(せいひつ)だけ。     
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