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 どれだけ進んだのか、なだらかな上り坂は突然終わりをつげ、やはりグレー懸かったブルーの湖が目前に広がった。この先に何かが侵入するのを阻止するかのように佇む波紋ひとつ起きないその湖は、まるで生き物を拒絶するようだ。彼は困ったそぶりも見せず、まるでここが目的地であるとでも言うように、湖の前にしゃがみこみ、おもむろに手を浸した。ゆるゆると水面が揺れたのを確認して、彼は手を水中から戻し、一振り、水を切った。 先に行けないことに諦めたのか、くるりと湖に背を向けた彼は、そのまま反時計回りに道なき道を湖に沿って歩き始めた。足ひとつ分あるかないかの細い幅の道、気を抜けばそのまま湖に落ちてしまうのではないか。少しづつ坂道だったのか、徐々に湖は下の方に見える。それと比例するかのように道幅は少し広がったようだ。  やがて湖から離れるように折れると、更に森は深まり、微かに届く光がところどころをスポットライトのように照らす。朽ちた木の階段が隠れるように現れる。彼はためらいもなく階段を登った。  そこには、小さな小さな集落があった。 「おかえり、イシュラ」 「ああ、ただいま、キッショウ」  線の細い小柄なこの世の者とは思えないような美しい少年のような青年に声をかかられ、何の違和感もなく答えた彼は、始めからその世界の住人のように馴染んでいる。
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