あのころ

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まだ学生だったころ 一人暮らしをしていました お金がきびしくて、アルバイトをしないといけませんでした 実益を兼ねて洋食屋さんに決めました アルバイトと大学の両立は大変だったけど 楽しみな事があったから苦にならなかった いつも食べに来る大学生の男子が 気になっていたからです 彼もまたアルバイトをしながら勉強していたようで 食べるものは安くてボリュームのある もやしのたくさん入った野菜のあんかけ定食のみ でした いつからかとても仲良しになって 経費削減の為に一緒に住むようになりました 優しい人で貧乏でも楽しかったです クリスマスイブの夜にアルバイトが 終わって疲れ果ててアパートに帰りました すると、彼は不器用な手つきで クリスマスケーキを作ってくれていました 白い生クリームで一面塗ってありました ガタガタの線が入っていて、不格好だったけど すごくステキに見えました 「イチゴは高かったからオレンジでいいだろ」 私は無言で涙が流れてきて ただ、ただ頷くだけでした 彼はそっと抱きしめてくれて背中を撫でて 「しあわせだよ」 と言ってくれました もう少しで卒業というときに 彼の体調が悪くなり 入院してしまいました 無理をしていたんだと思います 私は毎日、お見舞いに行きましたがなかなか よくならず面会謝絶が 続きました 一人で心細く何も手につかない日々 結局、よくならないまま 彼は亡くなりました 泣いても泣いても涙は枯れませんでした ある夜、夢をみました 彼の夢 彼は私に 「笑ってよ、それでさ、これ一緒に食べようよ」 と、言っていつかのクリスマスケーキを 私に差し出しました そこで、目が覚めて私はまた泣きました 泣いている私の事が気になってるんだね 私は泣くのをやめて また、もとの生活に戻れるように 何とか歩き出しました 彼が見ている気がするんです 白いケーキを見るたびに 彼は元気になったかなといつも思います
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