死の太母(マーテル・マカブレス)

1/5
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

死の太母(マーテル・マカブレス)

 太古、“人”は樹上の存在から地上の存在になった。  初めは悲嘆に暮れた “人”であったが、至高四神、そして白と黒の二十の神々の守護の下で次第に数を増やし、繁栄していった。  さらに“人”の心を司どる“人倫の神々”に守護を享け、“人”はますます繁栄し、その数を増やした。  “人”は多くの神々に守られ、幸福と苦悩、清廉と汚濁とを半々に抱えて日々を生きていた。  そこには生、幸福、知恵の喜びがあり、死、不幸、愚昧の苦悩があった。  神々に仕える僧侶と司祭はその調和の尊きを説き、“人”はその調和の状態に満足して生き、満足して死に、大いなる樹の上に帰っていった。    しかし、知恵ある“人”、その知恵ある“人”を導く僧侶と司祭の苦悩は深かった。  “人”は何故争うのだろう?  “人”の世は何故苦悩が満ちているのだろう?  “人”は何故生まれてくるのだろう?  “人”とは何なのだろう?  “人”を導く僧侶と司祭は答えを探し続け、神々に問うた。  だが、神々は“大いなる樹”について語るのみだった。    僧侶と司祭の中で、“人”の世を最も嘆き、苦しんだのは“人”を安息の地へと還す“死の女神”に仕える司祭たちだった。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!