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しかし仲間たちは、
「ドンくせえ野郎だ!」
「こんなのと一緒にされたくねえから、絶交な!」
「あばよ、のろま野郎!」
唾を吐きながら、オレと鉄くずとなりはてた愛車を見捨てて、離れていった。
オレは、暗闇の中で残されて、孤立した。ひとりで警察を呼んで、事故処理をした。みじめだった。
「まあ、命が助かってよかったじゃないか。君はまだ若い、これからやり直したらいい」
事故処理に当たった警官のその言葉を聞いて、その時になって、やっと気付いた。
「オレは、間違っていた!」
脳裏に浮かんだのは、子どもの頃に読んだ本のことだった。
「本は正しかった!」
本には人としての生き方が書き説かれていた。悪者の末路 真面目に生きることの大切さ。しかしガキのころは、わからなかった。
しかし、今はよくわかる。
オレは更生を決意した。
「おかえり」
と、とぼとぼと実家に帰って来たオレを、両親は温かく迎えてくれた。
色々あって、最後にオレを助けてくれたのは、敵だと思っていた人たちだった。
オレは敵と味方の区別もつかなくなるくらいに、馬鹿になっていた。
世の中には親から虐待をされるような人もいるのに。オレはそうではないのに、親すら憎んで、離れた。
好き勝手に振る舞い、人に迷惑もかけた。この罪は一生消えないだろう。
これは本当に、恐ろしいことだ。
自分の部屋は、ガキの頃のまま。よく掃除もしていた。いつでも帰ってきていいように、と。
部屋は暖かかった。我が世の春だと思っていたのは錯覚で、本当はあの時が冬だった。
「……」
オレは、本棚から、親に買ってもらった三国志の一巻を取り出して。思わずもの思いにふけった。
漫画にもいい話はあるのに、それを感じ取れずへらへら笑って読むことしかできなかった元の仲間たち。考えてみれば、それもそれで、かわいそうな話だ。
彼らはこれからどのような末路を迎えるのか。
携帯電話もつながらなくなってしまい、完全に絶交されてしまっては、どんなに心配してもどうしようもなかった。
ともあれ、ページをめくり、物語を読む。
読み進めるうちに、ふと、目から涙が溢れて来た。
劉備が、関羽が張飛が、芙蓉姫が、劉備の母が、
「おかえり」
と言ってくれているように、なぜか感じて。
「ただいま」
思わず、読みながらぽそっと、そんなつぶやきをもらしてしまった。
おわり
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