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病室は穏やかな空気に包まれ、静かだった。
「雪が降ってきやがった」
窓の外を見て、親方が呟く。
「退院したら、おめえは晴れてベントの旦那の子だ」
「……仕事はどうするんですか」
「まあ、しばらくはノーラとおめえを売った金があるからな。ゆっくりするさ」
ニカッと歯を見せて笑う親方。初めて見る顔だった。
「その後はよ。煙突掃除は廃業にしようと思ってんだな」
「えっ!?」
思いもかけない言葉に、セティは思わず声が出た。親方は畳んであるセティのスカーフを手に取る。
「これまでは思いっ切り汚れてきたからな。次は洗濯屋でも始めようかと思ってんだ」
予想もしなかった彼の計画に、セティは言葉も出ない。ただただ驚いて親方を見つめた。その少年の目の前に自身の白いスカーフが広げられる。
「キレイになったろ? まあ、おめえも手伝いに来てくれたっていいんだぜ」
セティはスカーフを受け取った。普段煤を上から容赦なく落としてくる彼が洗ったとは思えないほど美しかった。
「……手伝いに行きます」
セティが笑うと、親方は鼻の下を人差し指で擦った。
季節はまだ冬の真中。雪が街を、優しく静かに覆っていく。
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