潰えた願い

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「どこから来た?」 シーツを抱えて戻ってくると、彼は嗚咽の合間にある地名を述べた。セティにはそれがどこか分からなかった。 「暇な時は、何するのが好きだった?」 「本を読むのが好き」 「そっか……」 この少年は煙突掃除には向かない。性格は引っ込み思案、動きだって緩慢だ。セティは煙突から落っこちて死んだ少年たちをたくさん知っていた。そういうのは、大抵本が好きな大人しい子だった。 「煙突掃除の仕事は、きついの?」 初めて彼から質問された。セティは溜め息をついて、シーツをベッドに広げた。 「そりゃあ、きついさ」 すると彼はまたグズグズ泣き始めた。 「今日はそっちで寝な」 セティは埃っぽいシーツの上に横になり、彼に背を向けた。自分の腹の虫がぐうう、と情けない声で鳴いた。
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