潰えた願い

9/9

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
ノーラの荷物は少なく、引越しの準備は造作もなく終わった。頬を紅潮させ、彼は意気揚々と出ていく。 ディル・ベントはノーラを下男として買い取ると申し出、親方は「セティをこれこれの値で」と提示された半額であるにも関わらず、あっさりと快諾した。 迎えに来た召使いについていくノーラの背中をセティは満足そうに見送った。先日、ディルはセティをギュッと抱き締めてくれた。白衣が汚れるのも気にせずに。その感覚と暖かさはまだ体が覚えている。これからも忘れることはないだろう。 そしてディルは冬が過ぎたら絶対に養子にすると誓った。一年くらい親方がゆっくり生活できる金額を準備するから大丈夫だ、とも。 「さあ、俺たちは仕事に行くぜ」 「はい!」 力強い返事。親方とセティも道具を持って家を出る。どんどん風が冷たくなっていた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加