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仕事納め
その日の仕事は一年の締めくくりだった。これからしばらくは休みになる。その最後の屋敷はとりわけ立派で大きかった。ところが随分と煙突は汚く、汚れがベッタリとこびりついていた。
セティはいつものように良質の生地のスカーフで鼻と口を守りながら作業していた。そして親方も威勢良く上から煤を落としてくる。それでも順調に掃除を進めて行き、煙突の上部に差しかかろうとした時。
「……あっ」
煙突に体がガッチリと挟まった。
セティは滑らないように気をつけながらもぞもぞと動いた。しかし、しっかりとはまった体はビクともしない。
最初は何とかなるだろうと思っていたが、次第に額に汗が滲んできた。それとは裏腹に背中がスッと冷えるような気持ち。慣れているはずの暗闇が恐怖を煽る。焦れば焦るほど息が上がってきた。
いつもならもう仕事を終える頃なのに上に来ないセティに気づき、親方が声を掛けた。
「おい! まだか?」
響いてくる太い声に、セティは目を閉じた。最後の手段に出るしか、方法はない。
親方に上から突き落としてもらうしか。
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