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セティは小さく見えている上部の穴に向かって声を上げた。
「親方……! 体が、挟まりました。動けません」
声がわんわんと響く。すぐに相手が顔をのぞかせた。背景はもう暗くなっていた。それでも逆光になった親方の顔。目のいいセティは、彼が驚きと戸惑いで目を剥いているのが分かった。
「何とかならねえのか!」
やっとの事で答えた親方。動揺、焦り、苛立ちが混じっていた。
「ダメです……突き落としてください」
不安と絶望に、小さくなっていく言葉が震える。
「……待ってろ!」
セティの予想とは違い、親方はすぐに彼を棒で突き落とすことはせず、屋根から降りていった。
不思議に思っていると、程なくして彼の声は煙突の下から聞こえてきた。あと数人の騒めき。耳を澄まして聞くと、どうやら親方が事情を屋敷の者に話しているらしい。落ちても大丈夫なように敷物や柔らかいものを準備してくれるように頼んでいた。
「なりません!」
女性の金切り声が聞こえる。「奥様、しかし」と年寄りの声も。
煌びやかな宝石のネックレスやビロードの服を着た夫人は、額に青筋を浮き立たせて怒鳴った。
「最近はそうやって詐欺を働く煙突掃除夫もいると聞きましたわよ。大事な家具を汚して、洗うフリをして持ち出して、質に預けるとか。子供も演技が上手で騙されるのよ」
蔑む目で親方を見る夫人。もともと「荒くれ者」の異名を持つ親方はすぐにカチンときて声を荒げる。
「俺たちは真っ当な煙突掃除夫だ! それにうちのセティはそんな子じゃねえよ!」
怒鳴られた夫人は気が強く、負けじと言い返す。
「じゃあ暖炉に火を入れてみればいいのよ! 直ぐに上に駆け上がるわ」
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