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眩しい光に目を開ける。視線の先には見たことのない天井があった。セティがゆっくりと体を起こそうとすると、肩と左足に鋭い痛みが走った。ウッとうめき、体を再び横たえる。
痛みが落ち着くと、痛くない右手の甲で滲んだ額の汗を拭った。
「ここ、どこだろう」
首を左右に振ると、真っ白な枕。ベッドサイドに畳んであるのは自分の服と、初めてもらった時のように輝く白に戻ったスカーフ。
ぼんやりした頭で煙突内での事故を思い出そうとしていると、向こうの方から足音が聞こえてきた。そして遠慮なくドアが開けられる。
「おっ、目が覚めたか!」
現れたのは親方。彼は直ぐに身を翻して出ていった。間もなく慌ただしい足音と共に、ディル・ベントが駆け込んできた。
「セティ! 良かった。気がついたんだね」
優しいディルの顔。泣きそうな笑顔だった。
「先生……?」
「ここは入院患者の棟だよ。肩と左足が折れてるから治療しているところだ」
扉の向こうから「先生」と彼を呼ぶ声。ディルは振り向いて「すぐ行く」と答えると、セティの頭を抱き締めてその額に優しくキスをした。
「後でまた様子を見にくる」
嵐のような彼が去っていくと、残された親方は側の椅子に腰かけた。
「すみません、迷惑かけて」
「まあ、いいってことよ」
帽子を取ってハゲ頭をさする親方に、セティは申し訳なさそうに声を小さくした。
「あの、入院代と治療費は」
「旦那が出すってよ。息子の病院代だからってな」
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