煤汚れ

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少年は細身の体を煙突の上部から勢いよく突き出した。口と鼻を覆っていたスカーフを引っ張り下ろし、ケホッと空咳をする。急に入ってきた澄んだ空気が肺に痛くて胸を押さえる。 「よーし、セティ。一丁上がりだ」 恰幅のいい髭のオヤジが少年にご機嫌なダミ声をかける。セティと呼ばれた少年は聞こえないように舌打ちした。親方が煙突の上から遠慮なく煤(すす)を払い落としてくるのはいつものことだったが、この屋敷は殊の外多かった。 「今日はこれまでだ。おめえは先に戻ってな」 梯子を降りると、親方は屋敷の主人に報酬をもらいに行く。セティは梯子とブラシを持って、言われた通りに夕方の石畳の道を歩いていった。もう随分寒くなってきた。 彼は今年13歳になる煙突掃除夫。五年前に人買いによってこの街に連れてこられた。この冬が終われば、きっと違う仕事を探すことになるだろう。そろそろ体が煙突に入らなくなりそうだからだ。 「セティ」 「先生」 遠くから、今日も手招きする男性。親方の汚い髭とは違い、彼のは鼻の下できれいに整えられている。セティは大きな口で笑った。煤で汚れた真っ黒な顔。歯だけ白かった。image=513121162.jpg
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