煤汚れ

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彼はこの街の名医、ディル・ベント。煙突掃除の得意先でもあるし、仕事帰りにパンをくれる心優しい人でもある。 言いつけられて侍女が皿にパンを乗せてやってきた。 「あ、近寄らないで。汚れるから」 セティは近くに来た彼女から距離を取り、サイドテーブルに置かれたパンを野良猫のようにサッとつかんだ。その様子をディルは悲しげな笑顔で見つめる。 「今日はもう終わりかい?」 「はい。八件掃除しました」 「すごいじゃないか」 驚いたディルに、セティは得意げに胸を張る。 彼は運動神経がとてもいい。地元では走ると大人よりも速かったし、木登りも得意だった。 煙突掃除の仕事も手早く丁寧。掃除の注文が年々増えて、「荒くれ者」と評判の親方は機嫌良く仕事していた。 「今年の冬が終わったら、来てくれるんだろう?」 「もちろんです! 喜んで!」 セティの背がピンと伸びる。声もいつもよりワントーン上がった。ディルは満足げに頷く。 「来週はうちに来るんだったね。セティは仕事も早いし、親方さんも手放したくないだろうけど。今度は話をつけるつもりだよ」 「ありがとうございます」 溢れる笑顔を返し、セティは手を振って帰っていった。 同い年くらいの少年と比べると細い肩。この職業の少年たちは、成長して煙突に体が詰まらないように、食べ物を少ししか与えられていない。 しかしそんな生活も間もなく終わりだ。セティは足取り軽やかに街を駆けた。
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