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潰えた願い
翌週、ディル・ベント邸の煙突掃除を二日後に控えたある日の夕方。セティが外の小さな洗い場で大切なスカーフを洗っていると、親方が子供を連れて宿舎にやってきた。
「今日からここがおめえの寝床だ。こいつはセティ。いろいろ教えてもらいな」
親方はそれだけ言うと、セティに「頼んだぞ」と声を掛けて、向かいの自分の家に帰っていった。セティはスカーフを細い木の枝に引っ掛けた。
「お前、名前は?」
赤毛の少年は唇を噛み締め、俯いている。年は見た感じ10歳には届かないほど。
「何か食べた?」
今度は質問に無言で首を横に振る。
「来いよ」
セティが家畜小屋のようなボロ屋の階段を上っていくと、彼は黙って後についてきた。
部屋の戸は、ギイィ……と軋んだ音を立てて開く。中は窓がないので薄暗かった。セティは自分のベッドに隠していた紙袋を取り出す。
「ほら」
差し出したそれは、ディルからもらった今日のパン。少年は両手で受け取り、獣のようにかぶりついた。
「ごめんな。それしかない」
もう一つ空いたベッドのシーツを持って、セティは階段の踊り場ではたいた。盛大に埃が舞う。新入りが来ると分かっていれば、今日干しておいたのに。
背中の方から少年の小さな泣き声が聞こえた。
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