潰えた願い

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結局その日、五件の仕事のうちノーラが入ったのは最後の一件だけだった。彼を先に上らせ、セティが後について支えながらブラシで掃除させる。ノーラが何度も足を滑らせるので、セティはその度に重みに耐えた。あまり上まで行くと落ちた時が危険なので、半分から上はセティがやった。 疲れはするものの、弟分ができたことは嬉しい。いつもより張り切ってしまう。今日は布団も温かくて気持ちいいはずだ。 翌日、最後の仕事はディル・ベントの屋敷だった。 いつものように親方に先に帰れと言われた二人は、彼らのために準備されたたくさんのパンを袋に詰めてもらった。重そうな分厚い扉の前で親方と話していたディルは、セティを見てウィンクした。 もうすぐセティはここの養子になれる。ディルは今日親方と話をつけると言っていた。 一瞬浮かれた気持ちは、隣にいるノーラが視界に入った途端、急激に萎んだ。セティの明るい未来を知らない彼は、目の前のパンの山に笑顔を浮かべている。セティは唇を噛んで彼から目を逸らした。
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