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二人は自分のベッドに座り、互いに向かい合ってパンをかじった。
「セティのスカーフ、なかなか白くならなかった」
「もう、五年も使ってるからな」
すごいね、とノーラは目を丸くする。セティは小さく微笑んだ。
「最初の頃に、ベント先生がくれたんだ。あの時は真っ白だった」
それ以来大切に使ってきた。
「僕も要るなあ。あの中じゃ、息もできない」
ノーラが苦笑いする。実際必要なものだ。煤だらけの煙突内で鼻と口を覆っていなければ肺が冒される。
「セティはすごいね。僕、そんな風になれるかなあ」
屈託のない笑顔で、憧れの瞳を向けてくる無邪気なノーラ。脅えて足がすくんでいた彼も、セティの姿を見ているうちにやっと動くようになり、少しずつ前向きになっていた。
最近、アレックスはどうしたんだ
知らないのかよ。煙突から落ちて両足イカれたって
ルイスは? マグレットは? テリーは?
「セティ?」
ノーラが自分を呼ぶ声にハッと我にかえる。
「どうしたの? ぼーっとして」
「何でもない」
セティはそう言うと、さっと立ち上がった。
「ちょっと出掛けてくる」
「ええっ? もう遅いよ」
不安そうな声を背中に受けながら、セティは振り返ることなく部屋を後にした。
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