夢誘本

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 高校2年生の夏。  その定期テストの最終日。  私と彼は図書室で本を読んでいた。窓から涼しい風が吹き込み、夏でも気持ちいい場所だった。 「涼しいね」  向かいの彼に話しかけるけれど、彼は何も言わずにページをめくった。彼の読んでいるのは装飾のまったくない真っ白な本で、題名も著者名も、出版社さえも書かれていない、不気味で不思議な本。  ため息をついて、私も私の読書に戻る。  読み終えた余韻を味わいながら顔を上げると、彼はまだあの本を読んでいた。  しかもあんまりページも進んでいない。そんなに難しい本なのだろうか。  本を棚に戻して荷物を持つ。 「私、先に帰るね」  彼は反応しない。完全に集中してるみたいだ。  私は肩を落として、いつも通りなるべく静かに図書室を出た。  もし…このとき気づいていれば、結果は違っていたかもしれない。
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