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モラル
健やかであれ
高校一年の時、弟が生まれた。小さくて、柔らかい存在に、初めて生命の誕生の喜びを知った。
それと引き換えに、母さんが死んだ。母さんをとても愛していた父さんも、何を言い残すわけもなく後を追うように自殺した。
生きる術を知っていたし、弟も可愛かった。それに、まだ父さんと母さんが死んだ事にも、また実感がなかったのかもしれない。だから、親戚の好意を断って、三人で生きていくことに決めた。
高校を中退してバイト三昧。訳を話せば、仕事をくれる理解ある大人がいる事に有難さを感じながら、毎日、朝から晩まで、翔吾と二人で汗水流して働いた。
高校卒業の年、貯めた金でそこそこの広さのアパートを借りた。親戚の友人が不動産業を営んでいたらしく、以前の家をそこそこの値で買い取って貰うことができた。更にはバイト生活でも生活費と合わせて払っていけるくらいの、家賃の手頃な物件を勧めてくれた。
子連れの住人も多いアパートらしく、小さな子供のいる家庭でも安心して生活できるという。一度も弟についての苦情が来たことが無いことから、夜泣きもしない、大人しい弟にも恵まれたのかもしれない。
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