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「忙しいんだよ。先生も、そのくらいわかるだろ」
「家庭訪問…するって」
「はあ!?…嘘だろ…」
人の家の事情を知った上でその結論に達したなら、担任はクズだ。翔吾のささやかな収入と足してやっと三人生きていける生活の為に毎日朝早くから夜遅くまで働いて、自分の時間なんてありゃしない中で、でも小さい弟を育児放棄する訳にも行かなくて、学校にいく時間なんてもってのほかで…なら、家に行ってやるって?やってらんねぇ。
黙りこくったことで弟との間に会話がなくなった。リビングを支配する静けさにおろおろとする弟に、底知れない苛立ちが沸いた。
ガァン、と音を立てたのは、リビングのテーブル。土踏まずを淵に当て、何となく力を入れると盛大な音と共に揺れ、テレビの方へと吹っ飛んだ。
随分大袈裟な音が鳴った。と、他人事の様に考えていた。でもそれは、弟にとってはそんな生易しいものじゃなかったらしい。丸い、薄ピンク色に染まっていた頬は蒼白し、唇が微かに震えてる。やり場の無い手は腹のあたりの布を掴み、みるみる水膜を張ってゆく瞳から涙が溢れるのを我慢しているようだ。
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