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不審に思い問いかけると、彼女が言った。弟がそんなに小さい年齢だと思わなかった、と。ゆくゆくは結婚も視野に入れていたけれど、考えてしまう、とも。
頭の中が真っ白で、何も考えられなくなった。
味のしない酒を無意識に浴びる程飲んだらしい。酷く泥酔した状態で鳥足で夜の帰宅路を歩き、苛立ちを、どこの誰のものとも知れぬ家の門壁に拳を打ち付ける。
荷が重い、と別れを切り出された。何度も何度も説得した。でも結局は弟がいる限り彼女は俺のプロポーズに頷いてはくれないだろう。
気がついた時にはソファで寝ていた。玄関を開けた記憶はあるものの、ここに寝た覚えはなかった。考えるのが辛くてもう一度目を閉じた瞬間、ふと、横に気配を感じもう一度瞼を開いた。
眩しい照明の光と共に、弟の顔を見た。心配そうな表情で差し出してきたのはガラスのコップに入った水。ゆらゆらと揺れる水面は痛む頭を一瞬和らげた。でも直ぐに、女の去り際の顔が映った。
シャワーで頭から冷水をかけ、少し頭が冷静になった頃に、さっきまで側にいた弟の事を思い出した。
正直、何を言ったかは何も覚えていない。でも、何かは言ったらしい。歪んだ顔、目に涙を浮かべて、玄関から飛び出していった。
「っ!…てぇ…」
「どした?」
ある日の夕方、珍しく翔吾との休日が重なりリビングでのんびりしていた時、ソファの方から声が聞こえた。
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