モラル

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どうやら雑誌で指を切ったらしい血が滲んだ人差し指を見せてきた。絆創膏の置いてある棚を漁り始め、わざとらしく舌打ちをした。 「無ぇ」 「そんな使ったか?」 指を口に咥えながら唸ってる翔吾に、手帳にたまたま入っていた一枚の絆創膏を差し出した。怪我なんて滅多にしないし、絆創膏は一箱結構な量が入ってる。 いつから無くなっていたのかさえわからない。不審に思いながらも冷蔵庫に貼ってある買い物リストに付け加え、冷蔵庫からビールを取り出した。その頃にはもう、その事は頭から消えていた。 寝室兼勉強部屋になっている部屋のスライド扉が開いた。ぺたぺたとフローリングを鳴らしながらトイレへと消え、帰って来たかと思えばキッチンに入り何かを漁りだした。  最近弟と会話した記憶がない。仕事が忙しく時間帯的に合わないというのが大きいだろうが、それでも、夕方は家にいる翔吾も滅多に顔を合わせないと言っていた。 翔吾の話では学校から帰るのも以前より遅く、翔吾の出勤時間までの間に晩御飯を食べにリビングに出てきたことはここ数日で一度もないという。 彼女と疎遠になって以来ずっと、弟を無視している。弟の呼ぶ声に一言返すどころか、存在を消すように意図的に無反応でいた。     
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