モラル

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大人げないと思いつつもまだ、彼女の事を引きずってる。それが弟が原因だと言うから尚更、原因を前にすると苛立ちが抑えられない。気持ちを整理できるまでは、このままでいたかった。 チン、と軽い音が鳴った。椅子を引く音、ぺりぺりと何かを剥がす音…それを最後に、これと行った音が聞こえなくなった。 もう一本ビールを取りにキッチンへ向かうのと入れ違いに出てきた。手に持っているものを横目に見て、コンロにかかっている今日の夕食が入っている鍋のふたを開ける。 減っていない鍋の中身、掬った形跡のない米、手に持っていた冷凍食品。初めて、弟の反抗を目の当たりにした気がした。  弟が早退してきた。翔吾から連絡を受けてから少しして、会社を中抜けし家に着くと、リビングのソファに翔吾が座っていた。 「貧血だってさ」 「…勇希は?」 「部屋」  軽くノックをして、ドアを引く。静まり返った室内には、よく耳を済まさないと聞こえないくらいに小さな寝息だけが聞こえるだけだった。部屋の端の方に敷かれた敷布団の上、丸まった弟の顔に被さった掛け布団を少しだけめくる。 一人で学校から歩いて帰ってきたと聞いて、大して心配する事でもないと思っていたが、布団から覗く顔色はとてもそんな事を言っていられない程に悪い。 「なぁ、気持ち悪くないか?」     
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