4人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
どうやら意識は覚めていたらしい。でも、口を開くことは愚か目を開く気力もがないのか、脱力した首を小さく左右に振るだけだった。
その日は結局会社を早退扱いにしてもらい、夕方頃来た弟の担任からの電話を応対する羽目になった。
どうやら精神的に疲れが溜まっているらしく、自律神経が乱れているという。学校でもうまく生活できず、保健室で一日を過ごすことも頻繁にあるという。
知らなかった。知る術もなかった。今までそれを知るための対話から逃げて来たからだ。電話の向こう、担任の思考が手に取るようにわかる。ほら見た事か、散々面談を拒否し続けた結果がこれだ、と。
「晩飯は?」
「…カレーにした」
時刻はいつの間にやら夕飯時になっていた。弟の体調に合わせて粥やリゾットにしようと米を炊いていたが、ふと、昔の記憶が脳裏をよぎった。
弟の好物はカレーライスだ。幼少期、口の周りをベトベトに汚しながらも、どの料理を食べた時よりも美味しそうに、嬉しそうに食べていたのを覚えている。
我ながら、わかりやすいご機嫌取りだ。こんなことにでもならない限り、弟の好物も作ってやれない。弟の事を嫌いであるつもりもないのにどうしても、弟の成長と共に自分の思い通りにいかなくなる現実が煩わしくてしょうがなかった。
最初のコメントを投稿しよう!