モラル

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必要以上にルゥをかき混ぜていたらしい。翔吾に手からお玉が奪われ、米にルゥをかけ始めた。自分達用の皿よりも底が深く、一回り小さな食器にスプーンを入れ、キッチンペーパーをかけたものを鍋の横に置いた。 テレビを付け、遅めの夕食のカレーを食べながら、いつものドラマに目を滑らせる。それでも頭に内容が入ってこないのは、扉の向こうの弟の事が気になっているからだ。 カタン、と音がし、部屋の扉が開いた。ゆっくりとした足取りで、眩しそうに目を細めながらリビングに出てきた。不意に目が合い、少しの沈黙の後、何処からともなく腹の鳴る音が聞こえた。 音の元はすぐに察する事が出来たし、それを咎めるつもりも毛頭なかった。けれど、顔を真っ青に染めたかと思えば腹を力いっぱい抑え、怯えているようにこちらを見た。 腹が鳴った事に対しての恥ずかしさを隠しているというよりも、やってはいけない事をしてしまったという表情だ。 声をかけようとした。けれども、まるで逃げるように再び寝室へと入って行った弟に、翔吾と顔を見合わせた。 部屋に入ると、さっき見た光景と同じく、布団の中に丸まっている姿があった。 「ゆう」 さっきと違うのは、布団を取ろうとすると抵抗し、決して布団を捲らせようとしない事。 「カレー、あるからおいで」     
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