モラル

21/71

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
 保健室から今まで、終始無反応な弟に心配になり、横顔を覗き込んだ。乱れたままの前髪に隠れてよく見えないが、顔に生気がなく、どこを見つめるでもなくぼーっとしている。   そんな弟を無視するかのように一方的に話しかけ、弟の腕に被っているシャツのボタンを外し、捲り始めた。 「お兄さん、見たのは初めてですか?」  一瞬、息を忘れるくらいの衝撃を受けた。弟から女医の方へと伸ばされた左腕。手首から少し上のあたりから腕関節のあたりまで隙間なく、赤い線で埋まっていた。 赤に変わった信号に、ゆっくり、慎重にブレーキペダルを押し込んだ。左目でバックミラーを盗み見ると後部座席に座る弟の腕だけが微かに見える。 コートの下に隠れている左腕の傷は、こちらの意識が飛びかける程にショッキングなものだった。手首の少し上から、上へ、上へと行き、肩の方まで達していた無数の切り傷。どれも鮮明な赤色をし、乾いた形跡がまるでなかった。医師の話では、傷の盛り上がりから察するに、幼い頃から続けていたせいで癖付いたものだという。 知らなかった。今思えば一年中長袖を着ていた気がするし、異常に絆創膏がなくなる事もあった。でもまさか、こんなことになってるなんて、普通思わない。 「~~」     
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加