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母さんは不思議と、欲しい言葉を知っていた。いつも欲しい言葉を、欲しい時に投げかけてくれた。それの、真似をしたかった。
パキ、と錠剤の包装を折り、取り出した中身と水を、口に含んだ。ごくり、と飲み込んだ音がやけに大きく耳に届いた。
弟が中一の秋頃、近所のコンビニエンスストアの事務所にいた。
「どうか、警察には…」
頭を下げている。何故俺が。右隣のパイプ椅子に座っている、反省のかけらも見えない弟を、頭を下げながら睨みつける。
弟が万引きした。それも、今回が初めてじゃない。この店で、何度も犯行を重ねていた事が今回の事で全てばれた。過去、どれだけの物を盗んでいたのかハッキリせず、ありったけの持ち金と、本人含め家族全員の出入りを禁止するという条件で見逃してもらうことができた。
その場は収まったが、気持ちは全く晴れない。弟を床に座らせ、向かいのソファに腰を下ろした。
「何で万引きなんてした」
家に居た翔吾は、事情こそ詳しく知らないものの、なんとなく察していたのだと思う。何も言わずに少し離れた位置にあるダイニングテーブルに寄りかかった。
落ち込んでるわけでも、泣きそうなわけでもない。煩わしそうに微かに眉を寄せ、テーブルの下のカーペットの模様を見ている。
「聞いてんのか」
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