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なんだか、身体が楽になった。自分の全てを吐き出したからかもしれない。今までの鬱憤を原因である弟にぶつけた事で発散された。
ほんの十数分いるだけのつもりが、気がつけば一時間近くいたらしい。肌寒さを感じてリビングに入った。
「…なにしてんだよ」
「流石にやべぇかなって思って」
ソファの上に横たわり、翔吾が背中をさすっているのは弟。大袈裟に見えるほど大きく、不規則な呼吸を繰り返してる。翔吾が鼻に充てるティッシュは見る間に真っ赤に染まっていく。ソファの下に置かれているゴミ袋の中に、同じく赤く染まったティッシュが大量に入っているのがみえる。
翔吾が車を出す間、部屋に二人。弟をみて、ただただ呆然と立ちすくむことしか出来ない。
悪かった、その一言さえ出てこない。
いつものように廊下を進み、いつものフロアにたどり着き、いつもの部屋の前で立ち止まる。けれど、いつものように扉を開こうとすると、鍵がかかっているのか開かない。よく見ると、扉の取っ手にかかっていた筈の弟の名前の札がなくなっている。
「こんばんは」
背後からかけられた声に振り向くと、担当医が立っていた。
「…こんばんは…えっと」
言葉の代わりに、視線を扉へとやり、再び目を合わせると、察したように口を開いた。
「勇希君はこちらです」
「ぁ、え…部屋、移動したんですか?」
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