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ベッドのない、子供部屋のような空間の壁に背中を預け座っている弟。頭に巻かれた包帯と、さっき見た部屋の壁が結びつき、鼻の奥がツンと痛む。床はこっちの部屋同様、柔らかい床材のようで、窓が無い代わりに、窓枠を模した模様の壁紙が使われている。
「壁も全て、柔らかい素材です。打撲で傷を作ることは不可能です。この部屋にはもう、自身を傷つけることができるものはありません」
それが、安心できることなのか、わからなくなった。弟の自傷行為の意味は、無意識に乱れた精神を正そうとする為の行為だ。自分を傷つけた時の痛み、傷、血で、自分を保っているんだ。なのに、それを弟から奪っていいのか。自分を助ける為の行為を奪えば、それこそ勇希は、苦しむんじゃないか。
~~、~~~、~
「……ぁ、」
「鼻唄を唄ってますね。今日はご機嫌かな?」
何も知らない医師が、微笑みながら弟を見る。分かっちゃいない、何も。窓の淵に捕まって、ふらつく身体と嗚咽に耐える。
硝子窓の向こう。弟は唄ってる。
自分の死を、願ってる。
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