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母さんからの遺書なんて物はなく、父さんも何も残していなかった。当然の事とばかりに話を進める叔母に端から期待はしていなかった。けれど、小さい弟を気遣う姿勢をまるで感じず、この遺産を最後に血縁を切りたいと告げた。
金銭的なゆとりはまるでない。少しでも無駄遣いすると弟のおむつ代やミルク代さえも危うくなる。次の給料日までに残っているのは数枚の千円札とはした額の小銭だけなんて月はざらにある。
なんでもいい。どんなんでもいい。金さえ手に入るなら、どんな職業にでも就く覚悟だった。
ある日偶然、近所のショッピングセンターで再開したのは昔隣に住んでいた爺さんだ。よく小さい頃に遊んでもらった記憶がある。大きくなってからもいつも俺達を気にかけてくれた、優しい人だ。本当の祖父のように想っている。
背中に背負っている弟を見て目を輝かせた。弟が生まれたという話を聞いてからずっと、弟に会える日を心待ちにしていたと告げられ、申し訳なさでいっぱいになった。
敢えて、合わせないようにしていたからだ。この人に会えば、弟は必ず懐く。そうすればこの人は、弟の世話から金から、何から何まで面倒を見てくれようとすると、わかっていたから。
そうはなりたくなかった。つまらない意地なのはわかる。けど、自分達の手で弟を育てたかった。
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