モラル

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でも俺は知っている。表面だけは良い兄を演じようとしても、心の中では、俺を恨んでいて、勇希を煩わしく思っていることを。   勇希は俺を呼ばない。言葉を覚えたての頃はよく、爺ちゃんに教わった俺の名前を呼びながら近寄ってきていた。 でも、成長していくにつれて、どこかよそよそしくなっていった。俺も、勇希にどういう距離感で接すればいいのかがいまいち掴めずにいた。 小学生になった今は特に、会話らしい会話をした覚えも無い。俺に直接用がある事もないのだろうし、あったとしてもいつも健吾経由で話をする。 それは俺も望んだ事でもあるし、面倒ごとも無くて楽だ。勇希も勇希でそう思っているのかもしれない。俺があいつに淡泊になればなるほど、まるでそれを察するかのように勇希も、俺を遠くから見るだけになっていく。  自分がなんとなく、勇希の保護者なのだと自覚したのは勇希の小学校の行事の知らせが届いた時。俺と健吾の時も、同じような内容文が父さんと母さんの元に来ていたんだろう。  本当なら、爺ちゃんに参加してもらう予定だった。本当の爺ちゃんじゃない。前の家に住んでいた時、隣に一人で住んでいた爺ちゃん。     
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