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卒業の証さえあれば、あとはどーとでもなる。正直大学に入るのもいい会社に入る為じゃない。ただ遊ぶ時間を、学生の気分を捨てたくなかったから。
「飯、食ったのか?」
首を横に振った勇希に苛ついた。俺が起きてくるまで何も作らずに待ってる。まだまだ小さいのは重々承知だ。だから常に火もレンジも使わないものを用意してあるのに、それを食べようとしない。
「あっそ。俺外で食うから」
出勤直前まで寝ていたいと思うのは誰しもがそうだろう。それを、自分以外の為に早起きして飯を用意してやるなんて余裕はもうない。俺は親じゃない。自分の飯の用意くらい、出来るようになってもらわないと困る。今日みたいに健吾がいない日となると尚更だ。
黙って親戚の好意に甘えていればいいものを、健吾のつまらん意地でこんな狭苦しい箱に押し込められた。部屋の狭さと人と人の距離感が比例しているように思えて、息が詰まりそうだ。
それから逃れるように、俺は外に出る。
「…なにしてんだ?」
バイトが休みの日の夜、煙草を買いに家の近所のコンビニに寄ると、総菜コーナーに勇希が居た。
今は夜の十時過ぎ。小学生が一人で出歩いていたら通報される時間だ。店員もどうしたもんかと思っていたのだろう。身内の登場に安堵の表情を浮かべている。
勇希が手に持っていた鮭握りとペットボトルの茶を奪い、会計を済ませ店を出た。
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