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機嫌が良いらしい。鼻歌を歌ってる。随分懐かしい曲だ。勇希が幼稚園の頃、爺ちゃんが勇希に買った絵本の歌詞に俺と健吾が勝手に付けたメロディだ。
ジャンパーを勇希に被せ、離れた入り口で煙草に火をつける。
「~~、~、~~♪」
勇希の真似をして、鼻唄を歌った。
「あいつにあんま、あーいう事すんな」
翌日、タイミング良くか悪くか、出勤前に帰ってっ来た健吾に出くわした。女を連れ込むことは百歩譲って許したとして、勇希を追い出して警察の世話になるのはお前だ、と言いたかった。
反応は思ったよりも素直で、謝ってきた。あまりに非常識なことは薄々感じていたところだったらしい。
「なあ翔吾、勇希からなにか聞いてないか?」
「…別に何も聞いてねぇけど」
そうか、と言ったっきりで会話が終わった。そもそもあいつが俺に何かを言う事なんてない。相談なんてまずしないだろう。
そういうの含めて俺は、健吾に任せてる。勇希も、俺よりもこいつの方が話しやすいだろう。だからさっさと拗れた関係を戻して欲しかった。
ヒビの入ってるテレビ台のガラス、吹っ飛ばしたように乱れているテーブル、床に散らばる煙草の吸殻、ソファで寝ている健吾。
「あ~~~、うっぜぇーな」
叩き起こし、風呂に押し込んでソファを陣取る。朝の八時にのんきに寝てると思えば今日は健吾は休日だった。
「………」
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