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自傷行為をする人間からその行為を奪おうとするのは、死刑宣告と同じだとネットの馬鹿げた記事を読んだことがある。でも確かに、腕に爪を立てる事が勇希の逃げ道になっている今、それを取り上げた日にはこいつは壊れるだろうな。
「ありがとう」
そういって鋏を受け取った。それは何に対してのありがとうなんだろうな。
また聞こえた、鼻唄だ。特に楽しい状況じゃないと思うが、勇希の考えている事はわからない。
ある昼下がり、玄関の開く音で目が覚めた。欠伸をしながら寝室の扉を開くと、床に勇希が座り込んでいた。
「どうした?」
顔が青い、というのはこういう事を言うんだろうと思った。ランドセルを下ろさせ、とりあえずソファに寝かせる。原因がわからない以上どうする事もできない。とりあえず健吾に連絡をして、最悪病院に連れていくつもりで用意した。
健吾の帰宅を待つ間に、学校から連絡がき来た。『勇希君は無事に着きましたか』、なんてアホな質問にムッとした。普通、教師が送るとか学校にいる段階で保護者に連絡するのが義務だと思ったから。だがそれは、勇希が担任に頼んだ事だと聞いて納得した。
症状は貧血で、原因は体力の低下と栄養失調だという。この手の話は面倒だと、健吾の帰宅時間に改めて電話するよう告げ、適当に切り上げた。
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