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着替えさせ、なんとなく袖から引っ張り出した左腕の傷は、前よりも鮮明な赤い線に変わっていた。俺の鋏はどうやら、目的の用途通りに使われているらしい。
手首から少し上、絆創膏がこれでもかという程に貼られていた。何重にも張られた絆創膏の淵からはみ出した血は固まっているものの、剥がせば湧き出てきそうな程に新しい。
貧血の理由も、大量に消えた絆創膏の理由もわかった。そして恐らく、この理由を知っているのは、俺だけだ。
「助けてやろうか?」
問いかけに、小さく寝息を立てている口からは答えはない。そして、起きたところで、“いらない”と、答えるだろう。勇希は、助けの乞い方を知らない。教えていない。その代わり、自分で何とかする術はある。そう教えてきた。
小学生らしくない生活を送らせている自覚がある分、罪悪感はある。なかなかここまで傷のある小学生は現代でもそういないだろうから。
「…材料あったか」
冷蔵庫を確認して、レシピを検索した。
帰ってきた健吾は勇希の様子をみてすぐ、キッチンに入って行った。冷蔵庫を漁り、作り始めた夕飯はカレーだった。こういうところは兄弟だなって思った。勇希の好物を作ろうと思うんだから。
「~~、~♪」
「…それ、なんか聞き覚えあるな、なんの曲だっけ?」
「あ?あれだろ、勇希の絵本の曲だろ」
「あ~、そうだ。よく覚えてるな」
「…ああ、まぁな」
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