モラル

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別に俺は、勇希に暴力をふるった事も暴言を吐いたことも何かを強制したことも無い。でも、頼ることもできない存在。俺にとっては好都合。でも、勇希にとってはこれ程までに扱いにくく頼りにならない人間もいないんだろう。 敵か味方か、わからない存在。俺にもわからない。善人、悪人…自分が勇希にとって何になろうとしてるのか。  リビングに戻ってきた勇希はやっと、カレーを一口食べた。最近勇希が飯を食べている光景を見ていなかったせいか、さっき見た腕の傷のせいかわからないが、段々と身体が脆くなっている気がする。 「学校はどうだ」  耳を疑う言葉に健吾を睨み、咳ばらいをする。馬鹿野郎、それ以上聞くな、という意味を込めて。だがそんなのはこいつにはわからない。友達、相談、勇希の地雷を踏むようなワードを平気で投げかけるこいつは、本当に何も見ちゃいない。  再び逃げるように寝室に飛び込んで閉じられた扉は、また暫く開くことは無いだろう。かける言葉も無い。健吾の無神経ぶりに呆れてため息が出た。 「悪いが今日は仕事、休んでくれ」  珍しく緊張した声が電話越しに聞こえた。迷惑を承知で、寝ているであろう店長に休み希望の連絡をした。 健吾から電話が来たのは午前中の九時過ぎだったが、二人が帰ってきたのは夕方の五時ごろだった。待ちくたびれて途中で寝落ちていたが、どうやらそれは正解だったらしい。長い夜になりそうだ。     
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