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額に手を当てて、ソファに座り込んだまま沈黙している健吾を他所に、勇希が精神科で貰って来た内服薬の中身を出した。精神安定剤が丸々一か月分。飛び降りまでしようとした人間に、これほどまでに頼りない物はないだろうと鼻で笑った。
健吾が随分と精神に応えている様子なのはきっと、腕の傷を見たせいだろう。人形のように脱力した勇希を着替えさせる時、前とは比べ物にならないくらいに刻まれた傷を見た。俺ですら、少し具合が悪くなりそうな程。でも健吾はその様子を見ても、自分を責めるような深い溜息をつくだけで何も言わなかった。恐らく、病院で既に見せつけられたのだろう。
自分にかかっていたストレス全部を傷にしてくれたお陰で、一目で勇希の重症具合がわかったってことだ。
あれは誰が見ても、異常だ。
「~~♪」
「それ辞めろ!」
何気なく歌った鼻歌に健吾が怒声を飛ばしてきた。他意はなかったが、そんな怯えた顔されると、とことん追い詰めたくなる。
「なに、あいつ歌ってた?」
「…知ってたのか」
「まぁな、歌うタイミングも、なんとなくわかってきたわ」
予想はしてたのか、額を覆うように両手を当て、溜息を吐いてる。どうやら帰ってくるまでの間、どこかで勇希が唄ったらしい。
「どうすればいい?」
「俺に聞くなよ」
「お前はいつもそうだよな」
「喧嘩売るなよ面倒臭ぇ。あいつがして欲しいことしてやりゃあいいだけだろ」
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