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我ながら適当なことを言うと思った。そんなことで治る精神状態なら、死のうとしたりしないだろう。
俺の言葉を真に受けたのか、眉間に皺を寄せて考え始めた。健吾、お前はいい加減自分の行動が空回っているのに気が付いた方がいい。そうしないと地獄を見るのはお前自身だ。
言ったところで、こいつは俺の話など聞かないだろうが。
数日後の夕方、リビングの扉が開き勇希がカウンセリングから帰ってきた。
ただいまも言わなければ目も合わせず、棚から内服薬を取り出しキッチンに入っていった。後を追うように立ち上がった健吾も、同じくキッチンへと姿を消した。
勇希がして欲しい事、言う程簡単じゃない。だがそれは、今はただただ放っておいて欲しい、それに尽きるだろう。勇希の気持ちに共感したって不信感しか生まれない。否定すれば最後、自分の存在さえも自分で否定し始めて、死のうとする。全てが敵、全ての言葉がナイフになっている勇希に何を言ったって、勇希を完全に壊しかねない。なのにお前は。
『俺はお前の味方だから』
本当に大馬鹿野郎だよ。健吾。
人が変わった様、というのはこういう事なんだろう。今まで俺達の顔色を窺って、作り笑顔を作っていた勇希はどこにもいない。逆に、健吾が勇希の顔色を伺い始めたのが何ともおかしい光景だ。
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