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勇希が入院した精神科から健吾に呼ばれ向かった。勇希の部屋はミラーガラス越しに見る事が出来た。一言で言うなら、小学生の子供部屋みたいな場所だと思った。そんな部屋のベッドの上に寝ている中学生。違和感を感じながらも、ここに来る途中に前を通った個室の数に、そういう人間がこの世にごまんといる事を知った。
見た限り、部屋の中には何もなかった。だからと言う訳でもないが、絵本を一冊、渡すように医師に頼んだ。
この本は、例の歌の本。勇希の本棚にあったものを持ってきた。
勇希があの歌を好んでいるのか嫌っているのかはわからない。恐らく本当の歌詞も知らないんだろう。
俺も忘れていたけれど、この本のタイトルは『ゆうきのうた』。爺ちゃんが勇希の名前にちなんで買ったやつだ。
改めて読んだが、救いようのない言葉が羅列されてるだけの、現実を知らない人間が喜びそうな内容の歌詞だった。
本自体を手に取るかどうかは勇希次第だし、この歌詞を読んでどうなるかはわからない。もしかすると、壊れるかもしれない。
でももう、良いだろう。これで最悪な結果になったとしても、俺は後悔しない。死にたいのに死ねない。その方何倍も狂いそうになる。その引き金を引いてやるのが、俺の、兄としての最初で最後の役割だと思った。
もう、勇希を見守る事は辞める。ここにも、もう来ない。勇希も俺達に何の期待もしていないだろう。
勇希は、終わらせようとしてる。
それを俺は、肯定も否定もしない。
俺にそんな資格は、無い。
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