モラル

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勇気と希望を胸に  物心ついた頃の記憶はぼやけていて、あまり思い出すことができない。でも、僕に始めて笑いかけてくれたのは、健吾兄ちゃんだった。 “お母さんとお父さん“がいない事に対して、疑問に思ったことは無かった。僕にはお爺ちゃんも、お兄ちゃんもいる。皆、いつも僕と遊んでくれたから、寂しいと感じた事が無かった。だからこの生活が、当たり前なんだと思ってた。 お爺ちゃんがよく連れて行ってくれた公園で、仲良くなりたい子達がたくさんいた。一緒に泥団子を作っていると、その子達の“お母さん”からよく聞かれることが増えた、どうして、お父さんとお母さんがいないのって。お爺ちゃんとはよく公園に来るけれど、お母さんとお父さんは?って。 どうして僕に聞くんだろう。僕は何も知らない。お爺ちゃんも兄ちゃんも、理由を教えてくれたことはなかった。特に、聞いたこともなければ、知らなくてもいいと思ったから。 だから、“わからない”と答えた。その大人は僕に“かわいそうに”と言った。お爺ちゃんは庇ってくれたけど、どうしてかその言葉が悲しくて、その日は一日中泣いていたのを覚えている。     
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