モラル

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 でも、他の子はお母さんとお父さんが必ず観に来てくれている子ばかりだったから、少しだけ羨ましかった。 小学校高学年になった頃から、健吾兄ちゃんが僕に優しく声をかけてくることが増えた。最初は嬉しかった、でも段々とわかってきたのは、それは僕に外に出て欲しがっている時だって事。 どうして外に居なければならないのか、そう聞いたって、慌てた様子であしらわれる。理由はわからないけれど、そうしないといけないのはわかる。だから言う通りにした。 夜は寒い。寒さを凌げる場所がわからなくて、一階にあるゴミ捨て場の木箱に寄り添うようにしゃがみ込んだ。する事も無くてただぼーっと、足元の石ころを眺めて過ごした。 眠っていたらしい。健吾兄ちゃんの声で目を覚ました。どれだけ時間がたっていたのかわからない。けれど、健吾兄ちゃんの機嫌が良さそうでよかった。 これを機に、同じように家から出るように言われることが増えた。やっぱり理由はわからない。でも、一度だけ見たのは、僕が外に出た少し後に、女の人が僕たちの家に入っていったところだった。 どうして女の人が家に入っていってのかはわからなかった。でも、僕がここにいる理由と、女の人は無関係じゃないと思った。     
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