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毎年恒例の行事の為、全く事情を知らない訳ではなかったが、担当外だった為に今まで携わってこなかった。ただ今回は納品を担当している社員の臨時休暇が重なったために人手が不足しているという。
そんなの、知った事じゃない。事情を説明しても、「困る」の一点張り、困るのはこっちだ。事前にわかっているならまだしも、運動会が明日に迫っている。弟になんて言えばいい。粘っても結局は権力がものを言った。
買い物をして家に帰ったのは二十時過ぎ。リビングから聞こえる弟の楽しそうな声に気が重くなった。
「俺だけでも行こうか?」
「…勇希が行くって言えば、な」
ソファの隅に丸まって小さく寝息を立てている弟に毛布をかけ、トン、トン、と背中をゆっくり優しく叩く。赤く腫れた瞼と未だ涙の乾かない目尻に罪悪感が拭えない。翔吾に明日の朝早くに説得してもらう事にした。
翌日、朝食の準備をしているとどこからともなく運動会特有の開場の狼煙が上がった。リビングに出て来た翔吾の雰囲気から察するに、翔吾の説得に弟は首を縦に振らなかったらしい。学校に電話を入れ、会社へ向かった。
小学生になってからというもの、弟の成長と共に、ある時期が来ると一気に金が消えていく。それが一年の中で繰り返し起こって、何年も繰り返し起こるという事を忘れていた。
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