モラル

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 目の前に用意されたカレーを見るとまた、胃が動いた。そもそも、ちゃんとした食事を久しぶりに食べる気がする。  ひとすくい口に運んだカレーは本当に美味しい。口の中に広がった味にまた涙が出そうになった。  もうひとすくい食べられるかな、なんて考えている時、健吾兄ちゃんが僕の学校生活について聞いてきた。兄ちゃんからすればただ、僕の近況を知りたかったのだと思う。けど、その話は聞いて欲しくなかった事だった。  最近、酷く嫌なことがあった。これは誰に言うつもりもないし、言いたくない事。腕の傷の殆どの原因でもある。それに加えて、友達だと思っていた人が僕の陰口を言っているのを知った。物も良くなくなるし、この間は背中を蹴られた。  でも担任の先生にそんなこと、言えるわけが無い。だってそんなことをしたらまた、先生は兄ちゃんに連絡を取ろうとする。それに兄ちゃんも僕が虐められてるなんて知ったらきっと、怒る。  それにわかってる。健吾兄ちゃんにも翔吾兄ちゃんにも、誰にこの事を相談したって僕への虐めは無くならないって。全く知らない土地へ引っ越したりしない限りはそんなの、悪化するだけだ。  相談なんて出来るわけが無い。だからこうして、自分なりに耐えている。毎日、一日の記憶を消すように腕に刻み続けてる。     
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