モラル

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 飲み込んだカレーが戻りそうなくらいに気持ち悪くなって、布団に戻った。流れ出る涙をそのままに手探りで棚からハサミを取り出して、日課をこなしていく。  腕の半分以上を埋めた盛り上がりのある傷。初めて、無意味なもののように思えた。 どうでもよくなった。なにもかも。 ただ目の前の窓から落ちればいい。 考えるのをやめた。体の力は自然と抜けて、足が進むままに歩いて、棚を登って、何もない空間に体を傾けた。 終わろう。 そう思った。 なのに。 瞼を開いたら、何も変わってなかった。いる、僕を笑ってた人達。ある、僕を必要としない場所。声が聞こえる、でも言っている意味はわからない。 この掴まれた腕を切り落として、もう一度、誰にも掴まれないような速さで、思い切り飛び降りる。いや、ガラスで首を切ったほうが早いかもしれない。 確実に死ねる方法を、頭の中で二、三考案したけれど、全て病院へ運ばれる運命が見えた。 ああ、面倒だな。死ぬのって、こんなに大変なんだ。死にたいと思っても、邪魔をしてくる存在があるから。     
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