モラル

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 普通ってなに。何を基準として僕を普通じゃないって言ってるの。自分?他人?もしも自分なら、健吾兄ちゃんと僕は生まれた瞬間から何もかもが違う。持っているものも、性格も、考え方も、身体も、家族も環境も。  当たり前なことを言わないで欲しい。そしてそれを責めるなんて、あまりに酷い。  だから言った、今まで思ってたこと全部。 「そんなの当たり前じゃん。兄ちゃん達にはお母さんもお父さんもいて、誰にも気を使わないでみんなに愛されて育ったんだろ。でも僕は、爺ちゃんが死んでからずっと、なんでこんなに辛い思いしてるんだよ。普通じゃない?おかしくもなるよ!なんで普通に育ててくれなかったんだよ!僕だって死のうとなんてしたくなかった。でも、もう限界なんだよ!兄ちゃんだって僕の事邪魔だって思ってんだろ!だからそんなこと言うんだろ!邪魔なら邪魔って言えよ、前みたいに出ていくから!」  脳が揺れた衝撃で身体を支えられなかった。後頭部を思い切り打ち付けて意識が朦朧とする。腹を踏まれて、目を開く間もなく拳が飛んできた。  何度も何度も、何度も何度も。  健吾兄ちゃんの叫びと共に。振り下ろされた。 叫びは兄ちゃんの本音だった。兄ちゃんだって、自分の人生を送りたかった筈なのに、僕が邪魔した。僕の存在が兄ちゃんの人生を狂わせた。 なんだ、そっか、じゃあ、もう、ずっと前から、いらなかったんだ。     
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