モラル

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辛くてたまらない。翔吾もバイトで稼いだ金を毎月家に入れてくれはするものの、ほんの僅かな額だ。シフトの関係でしょうがないと言っていたが、本当は仕事の前や終りに友人達との交流に金を注いでいるのを知っている。 弟の成長が悪いわけでもない、翔吾の金遣いが悪いわけでもない。でも、こんなにも家族のために我慢して金を作り、貯め、自分のことを二の次にしてきたのに、何の見返りも帰ってこない生活に、苛立ちが最高潮に達した。 この家に来て、初めて翔吾と喧嘩をした。口喧嘩は何度もあったが、殴り合いの喧嘩に発展したのは初めてだ。“見返りなんか求めるな、厚かましいぞ”そういった翔吾にカッとなった。 翔吾の言い分ももっともだ。でも、同じ日に同じ腹から生まれた片割れが、こうも呑気に大学生活を謳歌しているなかで、自分の報われなさを感じずにいられる訳がない。 見返りとは言わなくても、少しでも、一言でも、労いの言葉でもあれば。そう思わずにはいられなかった。 この頃からだ。弟に悪影響かと思いやめていた煙草をまた、吸い始めた。 職場の経理の女と親しくなり、何度か会社の飲み会を中抜けしては二人で飲む様になった。相手に恋愛感情と欲情を抱いたのは意外にもあっさりと、一ヶ月も満たない程だった。     
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