記憶をなくした大罪人

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「この町は駄目みたい……あーあ」  人の気配が一切ない、森の奥の廃墟。  少年は豪奢ながらも埃っぽい応接間で、一部スプリングの飛び出たソファにダイブする。 「一瞬見られただけで大捕り物……結構過激派だな。この屋敷、いいと思ったのに勿体ねーぜ」  ここだけ綺麗に整えられたテーブルの上にパンを四切れ置いて、壁紙、天井を見渡して少年の友人はため息をついた。 「シナー、なんか思い出すことないのか?」  パンを咥えたまま無言で首を横に振る、シナーと呼ばれたその少年は、一年以上前の記憶が一切なかった。 「追われてばっかりで、思い出す暇もないよ。そろそろここも出て行かなきゃね」 「そうだな……次は北にでも向かってみようぜ」  一年間、シナーは恩人でもあり親友でもあるリアンスと共に、世界各国を彷徨い歩いている。  特に目指す場所があるわけではない。  シナーの記憶を取り戻すことが、彼らの目的だった。
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