第一話:赤い糸

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第一話:赤い糸

 小指に結ばれたその糸の先に運命の相手が待っているという、中国の伝説を起源としたロマンチックな迷信は、主に東アジアで信じられている。誰しも一度は、自分から伸びたその赤い糸が恋慕する相手と繋がっていることを密かに祈った経験があるはずだ。小説や映画といった創作物においては、その不思議な力で主人公たちを結びつけ、劇的な困難を引き起こす便利な道具として用いられることが多くあり、確かに、その人の運命を大きく変える要因の一つである。  しかしながら、実際問題として赤い糸で結ばれた人間どうしが、本当の意味で結ばれることは殆ど無い。大抵の場合、出会うこともなければ、出会っても気づくことはなく、互いに全く違う相手と繋がってその生涯を終えてしまうからだ。  たった今、駅の改札口で神がかりなタイミングで視線を交わしたあの男女が、実は運命の赤い糸で結ばれていたにも関わらず、そのまま人の波に攫われて互いを見失ってしまったように。  それはどうしてか?      
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