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「あまり使いたくないけど」
「でも、こればっかりはな」
部屋に据え置かれた時代遅れの黒電話を手にしたミカは、神様の代理に直通する電話番号にダイヤルを回した。手短に用件を伝えると、暫く保留の音楽が鳴る。ドリス・デイのケセラセラだ。ミカは耳越しに流れるその曲に合わせて鼻歌を歌いながら、皮肉めいた笑い顔を見せていた。
「どう?」
「まあ、多分通るだろな」
「難しい仕事になりそうだね」
「なるようになるさ」
※
頭上で鳴り響く目覚ましに、深く沈んでいた意識を引っぱたかれる。
徹夜で資料を読み漁った所為か、動きの鈍い頭の中にアラームの残響が暫くこだましていた。やがて、意識の覚醒と共にゆるやかに獲得していく身体の感覚に、一瞬だけ戸惑うが、すぐに仕事中であることを思い出す。
ゆっくりとした呼吸を意識しながら、全身の感覚を確認していく。ありとあらゆる関節を曲げ伸ばし、両手足の指先までその動きを確かめる。どうやら、身体への侵入はスムーズに行われたようだ。
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