0人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
理由は単純だ。すべて運命が予定通りに進むことは滅多にないが、すべての運命は予定通りに進んでいるからだ。結ばれなかったのなら、それもまた、そういう運命だったということだ。
まるで言葉遊びのような誤魔化し方だが、簡単に言ってしまうと、赤い糸があるならば、当然、黒い糸もあるということだ。黒があるなら白もあり、また、青や緑もある。その色とりどりの運命の色糸が複雑に絡まり、途切れ、繋がり、折り重なることでその人の運命が決まっていく。
その人の人生は、周りとの相互関係の中に生まれ、刻一刻と変化するものだ。角度が１度でもズレていれば、進んだ先でのギャップが大きくなるように、ほんの一瞬のすれ違いが、違う運命を呼び寄せる。そうして、多くの人間たちが、運命の相手ではないパートナーと結ばれている分だけ、運命の相手がいなくなってしまう人間も出てくる。
そしてその、行き場を失った糸を再び結び直すのが、僕たち天使の仕事だ。
「心の声が丸聞こえだぞー」
「えっ！？」
双眼鏡を片手に、彷徨ように行き交っている人波を見ていた僕の背中に、よく響くバリトンボイスが降りかかる。窓一面に下界が見下ろせる部屋の一角で、電話のベルが鳴るのを待ちながら、僕たちは有事に備えて準備をしていた。
「何だよ、その格好つけたクサい台詞は？」
最初のコメントを投稿しよう！